TNFDへの対応

双日は、自然関連リスク・機会についてTNFD(*)提言のフレームワークを活用し、積極的な情報開示努めています。

  • (*)Taskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略。国連開発計画(UNDP)等によって設立された「自然関連財務情報開示タスクフォース」の略称であり、企業が投資家や市場に対して自然に関連するリスクや機会等を開示するためのフレームワークを策定しています。

一般的要求事項

1. マテリアリティの適用

当社はマテリアリティ(サステナビリティ重要課題)として「環境」と「資源」を特定し、事業を通じて、社会課題の解決と事業基盤の拡充及び成長につなげていくことを目指します。

2. 開示の範囲

本開示は、双日および主要グループ会社の自社拠点に加え、上流から下流までのバリューチェーンを対象としています。

3. 自然関連課題の所在

自然資本への依存度が高い水産事業バリューチェーンにおいて優先地域を特定しました。

4. 他のサステナビリティ関連の開示との統合

当社はTCFDの提言に基づき気候変動に関するリスクと機会の分析・開示に取り組んできました。今後は、自然資本や生物多様性を含む自然関連リスク・機会への対応を強化し、TNFDの提言に基づく開示も進めていきます。TCFDで培った知見を活かし、TNFDとの統合的な情報開示を検討します。

5. 検討する時間軸

中期経営計画2026の期間を通じて、生物多様性や水資源などの自然資本に関する影響の把握と対応の検討を進めていきます。

6. 先住民族・地域コミュニティ・影響を受けるステークホルダーの参画

当社は「双日人権方針」に基づき、グループ従業員、労働者および双日グループの事業活動により影響を受けている、または潜在的に影響を受ける可能性のある外部ステークホルダーとの対話の重要性を認識しており、当グループの事業に関連した人権問題について、ステークホルダーと対話を行います。

ガバナンス

当社は、取締役会、経営会議、サステナビリティ委員会からなるガバナンス体制を構築しています。取締役会は自然に関連する依存、影響関係、リスクおよび機会を含むサステナビリティ課題の監督責任を担い、経営会議は社長を議長として戦略や重要施策を審議・決裁します。サステナビリティ委員会は社長が委員長を務め、年4回以上開催し、方針・推進体制の整備、リスク・機会の特定、指標・目標の策定、進捗モニタリングを行います。委員会の活動内容は経営会議および取締役会に定期報告されます。

■ 人権方針

当社は「双日グループ人権方針」に基づき、「国際人権章典」や国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」を尊重し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則って活動しています。人権に関わるリスクを含む「環境・社会リスク」への対応方針や施策は、サステナビリティ委員会で審議し、経営会議および取締役会に報告したうえで実行しています。
また、ステークホルダーとの対話を通じて、①方針の策定・共有 ②リスク評価 ③改善・救済 ④実績開示というプロセスを実施しています。特に、リスク評価やグリーバンスメカニズムで改善点が判明した場合は、速やかに是正措置を講じています。

ご参照:

リスクとインパクトの管理

■ 自然関連課題の特定・評価

当社および主要グループ会社の自社拠点に加え、上流から下流までのバリューチェーンを対象とし、自然資本(生物多様性・水)に関わるリスクとインパクトを評価しています。TNFD推奨のENCOREを用い、当社事業の中から依存・影響の重要度が高い事業を特定しました。特定した事業のうち、注力領域である水産事業バリューチェーンについては、LEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)を採用し分析を実施しました。あわせて、WRIの水リスクツールAqueductを用い、資産に対する洪水・干ばつなど水関連リスクを精査しています。

■ 自然関連課題の管理プロセス

生物多様性を含む環境への対応はサステナビリティ委員会にて討議し、経営会議および取締役会に報告のうえ、取締役会の監督下で推進しています。事業投融資の審議では、生物多様性を含む環境・社会リスクの分析・評価を行い、サステナビリティの観点から当該案件の推進意義を確認し、投資の実行を決議しています。実務はIR・サステナビリティ推進部が担い、サステナビリティ委員会の指示事項の遂行に加え、投融資審議案件について生物多様性を含むサステナビリティ観点での確認を行っています。

■ 自然関連リスクの全社的リスク管理への統合

当社の全社的リスク管理では、社長・CFOがメンバーを務める内部統制委員会が、各種社内委員会と連携し、方針の協議・策定、第一線・第二線が実行するリスク管理の全体俯瞰とモニタリング、関係先への指示を担います。監査部は第三線として独立の立場で、第一線・第二線のリスク管理を客観的に検証します。全社的リスクには自然資本を含む『環境・社会リスク』があり、内部統制委員会は、その状況を経営会議や取締役会、監査等委員会に定期的に報告しています。

戦略

TNFDガイダンスを参照し、下図の手順に従って当社事業における自然への依存と影響を確認しました。

【自然への依存と影響の重要度が高い事業・分析対象を特定】

TNFDのガイダンスを参照し、分析ツールのひとつであるENCORE(*)を活用し、まずは世の中一般の事業が自然資本にどのように依存し、また、どのような影響を及ぼす可能性があるかを確認しました。その結果、ENCOREで依存・影響の重要度が高いと評価されている25事業を特定し、さらに「依存」「影響」ともに水に関する項目のスコアが一般的に高い傾向を確認しました。特定した事業のうち、当社が注力領域として掲げている水産バリューチェーン(マグロの養殖を行う双日ツナファーム鷹島、水産品加工を行うマリンフーズとトライ産業等)をTNFDのLEAP(Locate、Evaluate、Assess、Prepare)アプローチによる分析の対象としました。

  • 民間企業による自然関連の依存や影響の大きさを把握することを目的に、国連環境計画・自然資本金融同盟(UNEP-NCFA)等が共同開発した分析ツール

■ ENCOREを用いた当社ポートフォリオにおける概観分析図およびその抜粋

【水産バリューチェーンのLEAP分析】

Locate(自然との接点の発見):
双日ツナファーム鷹島の自社養殖、上流の飼料・種苗調達、および下流のトライ産業やマリンフーズといった国内加工工程を対象とし、生物多様性や生態系サービスの質の低下につながるリスクが大きい箇所を優先地域として特定し、各地域の特徴を整理しています。

Evaluate(自然との依存・影響の診断):
Locateで特定した優先地域について、リスク要素や分析ポイントを洗い出しました。さらにそれらポイントについて、まずは自社養殖である双日ツナファーム鷹島における自然の状態の確認や規制の調査、及び各社へのヒアリングによる実態把握を実施しました。

Assess(重要なリスク・機会の評価):
以上を踏まえ、TNFDのセクター別ガイダンスに沿ったリスク・機会の洗い出しを実施した結果、重要性が高いと評価されたリスク・機会と当社グループの取り組みは次の通りです。

想定される主なリスク・機会 双日グループの取り組み
リスク ・海水温の上昇及び赤潮発生に伴う製品の品質低下、死亡率の増加
・脱走魚による生態系の劣化と経済的損失
・餌の食べ残しによる水質汚染による養殖適地の変化 等
・IBAT* による対象地点周辺の調査
・水温、塩分などのデータ収集と分析
・赤潮の発生予測アプリの開発
・AIを活用したマグロの尾数把握
・生簀網の定期検査
・給餌量や出荷タイミングの最適化
機会 ・生態系への影響を軽減する技術への投資
  • Integrated Biodiversity Assessment Tool (IBAT) : IUCNレッドリスト、保護地域、生物多様性上重要地域(KBA)などのデータベースへのアクセスが可能な地理空間データを提供するツール。

Prepare(対応と報告の準備):
双日ツナファーム鷹島では、飼育にICTを積極的に導入し、「国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)」との産学連携によるスマート養殖システムの構築を進めています。また、国立大学法人九州大学と赤潮の発生予測アプリの開発及び実証を開始しました。これらの技術を双日ツナファーム鷹島に限らず、他の養殖場が抱える課題の解決にも活用し、サステナブルな海洋資源の保全に取り組んでいます。

ご参照:

今後は、LEAPアプローチによる分析を通じて得た知見を個別事業の運営に活用していくとともに、分析対象を上流の飼料・種苗調達、および下流のトライ産業やマリンフーズといった加工工程に拡大します。また引き続き、自然資本(生物多様性・水リスク)を注視し、事業ポートフォリオに対する依存度・影響を見極めていきます。

【鉱山開発・操業事業における環境保護、社会貢献の取り組み】

当社は鉱山などの上流資源の開発や採掘に当たって、自然資本の毀損や生態系への影響を想定した適切な環境・社会影響評価、管理やモニタリング計画に加え、閉山計画も含めた事業計画を策定し、国や地方自治体の定める法令の順守や必要な許認可取得を通じ、環境保全に配慮した活動を行っています。

開発段階では対象地域の生物多様性への影響を最小限に抑えるように環境負荷の低減に努めながら進め、操業段階への移行後では採掘域内に流れる小川の水流を維持すべく移転工事を実施する等、定期的な環境影響のモニタリングと共に万が一に備えた防止策なども十分に講じた上で活動しています。終掘後のリハビリテーションにおいては、閉山を待たず採掘活動と並行しながら植林や緑化活動をすべての鉱山において徹底することで、自然資本の毀損リスクの顕在化や拡大の未然防止を図り、環境負荷の低減と環境保全を進めています。

具体的には、豪州に保有するグレゴリー炭鉱やミティオ・ダウンズ・サウス炭鉱の露天掘操業では、採掘の為に剥がした表土を別の場所で一時保存し、採掘終了に併せて再度その表土で覆い被せながら再緑化を行うことで、採掘前の状態に回復させる取り組みを行っております。さらに、両炭鉱の敷地内や周辺地域において、開発・操業活動で影響を受けかねないライチョウバトやキンググラスなどの希少動植物の生息区域を関連法令に則って確保し、且つ承認された計画通りの保全活動を行っています。

【木材調達方針の取り組み】

1,500社ある双日グループの木材関連の仕入先のうち、原産地のカントリーリスクの高さ、仕入金額の多さや当社方針への適合性などを考慮して、木材関連の全体仕入金額の80%以上の木材を重点調査対象として選定し、トレーサビリティや環境社会配慮状況を調査すると共に、取引先に啓発活動を行っています。

ご参照:

また、当社および必要なグループ会社は、適切な森林管理を認証する「FSC認証」を取得し、持続可能な森林資源調達に努めています。

ご参照:

指標と目標

2004年に制定した双日グループ環境方針において、気候変動防止に向けたCO2をはじめとする温室効果ガスの削減、生物多様性への対応など、事業にかかわる環境負荷の最小化に取り組むことを掲げています。以下については、個別の指標と目標を定めています。

ご参照: